小野写真館の経営を両親から引き継ぎ、いわゆる「イケイケ」の状態で事業展開をしてきましたが、僕の中には引き継いだ際に立てた明確な目標がありました。それは「20%の複利成長を続けていくこと」です。 実際に実現し続けてきましたが、はれのひ事件が起きてしまったことで、業界の状況が一変し、継続してきた複利成長はいったんストップしてしまいます。 当時、二十歳振袖館Azのブランドが急成長していたタイミング。事件が及ぼした悪い影響は計り知れません。
僕は当時、「100億円の売上を実現する」という旗を掲げ、自分の中の正義として突っ走っていました。 ただ、はれのひ事件が起きて状況が変わったことにより、意図的に事業の成長を止めることを決意。 僕自身がもがき苦しみ、考え抜いた結果、もちろん出店は続けますが、一時期の「出店100店舗だ、売上100億円だ」との方向ではなく、違った形で小野写真館を成長させようと決めたのが、小野写真館3.0の出発点になります。
僕たちの事業をシンプルに分類すると、結婚式、成人式の振袖レンタル、七五三などのキッズ写真。これらの3事業になります。 その点を踏まえ、本当にいろいろ考え抜きましたが、例えば明日、世の中から結婚式や成人式や七五三がなくなれば、小野写真館は潰れてしまうでしょう。 明日なくなるというのは大げさに感じるでしょうが、10年後を見据えた時に、消滅こそしなくても、規模が相当に小さくなっている可能性を拭い去ることはできません。
これから日本の人口は確実に減っていきます。2019年、出生数が初めて90万人を割ったという事実からも、人口減少は目に見えているのです。 結婚についても、結婚式まではしないという方々が確実に増えていますし、成人式も18歳に引き下げる問題を抱えるなど、我々の事業は確実にシュリンク(萎縮)に向かっています。 成人式を例に挙げましょう。今は20歳の集いとして成人式は変わらない流れになっていますが、仮に状況が変わり、18歳が成人式の年齢になれば、受験生がほとんどですから「成人式なんて出ている場合じゃない」と参加数は半減するはずです。
10年後に社員皆さんの生活を支えていくことを考え抜いた結果、僕は会社のコアバリューを再定義しました。 我々は結婚式と成人式、七五三などの写真撮影を目的とする会社なのではなく『感動体験を生み出す会社になる』形に変えたのです。 これは僕にとっての大きなメッセージになっています。 我々は、結婚式、成人式、七五三などを通じ、お客様に感動体験をプロデュースすることこそが事業目的。そのことを明文化しました。
コアバリューを再定義したことで、10年後に小野写真館という会社が劇的に変化する可能性があります。感動体験を創出することに関して、小野写真館がブレることはないです。 しかし結婚式、成人式、七五三に固執することは止めよう。そういった考えを社員の皆さんと共有する意味合いが強いです。 水戸ホーリーホックさんに賛同してスポンサードすることになったのも、コアバリューに沿った行動。 水戸ホーリーホックさんが提供していることも、我々とはやり方こそ違うけれど、感動体験に他なりません。非常に小野写真館と考え方が近いと感じました。
では、どのように感動体験を生み出すか。 現在、明確な方法を探っている段階です。まず考えられるのは、テクノロジー。逆に、今後、テクノロジーを避けることはできないと思っています。 写真とテクノロジーを掛け合わせることで、新しいスタイルの感動体験が生まれることは間違いない。 我々は店舗でのリアルビジネスが基本ですから、将来的にも、感動体験を生み出すという目的に変わりはありません。 ただ生み出した物をテクノロジーで何かしら広めることはできないだろうか、何かの形でクラウドに残すことは可能だろうか、など。 そういった意味で、写真とテクノロジーの掛け合わせで、新しい事業をつくりたい想いが、僕にはあります。
テクノロジーと別の方法だと、我々がM&Aの形をとって、ある事業を買収し、我々の事業とを掛け合わせて、全く新しい事業を生み出したい。 もともと小野写真館グループには「生涯顧客化」というテーマが存在しています。 結婚したお客様ご夫婦にお子様が生まれ写真撮影するのを始めとして、入園や七五三、入学式、卒業式、そして成人式。さらには結婚の各ステージが待っています。 ライフタイムバリューとして、一生、小野写真館グループをご用命いただきたいのです。
生涯顧客化の長いスパンの間に、M&Aで取得するなどして、何か別な事業を効果的に置けないだろうか。 我々は、写真業界、ブライダル業界、呉服業界などの場所でビジネスをしていますが、そもそもそれら業界自体を生涯顧客化の形でつくり出すことができれば、結果的に多くのお客様が幸せになれる感動体験を、さらに生み出せる企業に変わっていけるに違いありません。 それこそが小野写真館3.0のあるべき姿です。だから僕は、今、全ての可能性を決して否定しないスタンスでいます。 テクノロジーやM&Aの活用もそうですし、あるいは僕自身がテクノロジーの会社を起業するかもしれない。もしくはベンチャー企業に弊社が出資して協業する可能性もあります。